2014年07月04日

天使の福音 2

第2話。
色々と詰め込んでいます。
んでもってスカイアイの嫁と子供初登場です。
「天使の福音」のタイトルの意味が分かるかと。

・・・しかし、子煩悩だよなスカイアイ・・・
ていうかべたぼれだよな・・・

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2014/07/04 UP

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 約束の日。
 モビウス1はメモを片手に一件の家の前に立っていた。
「ここだよな」
 番地を確認し、インターホンを鳴らす。
 すぐに玄関のドアが開き、金髪の女性が姿を見せた。
「メビウス1、ですね。お待ちしてましたわ」
 そう言って、彼を招き入れる。
 応接間に通され、紅茶が振る舞われる。
 「主人、呼んできますわ」
 どうやら、今のがスカイアイの「マイハニー」らしい。
 割と美人だが、やっぱりNATだよなと思い、次の瞬間自己嫌悪に陥る。
「なんでここであいつが出るんだよ……」
 とりあえず、紅茶でも飲んで落ち着くか、とティーカップを手に取る。
 その時、きちんと閉められていなかったのかドアが動いた。
 ドアの隙間から、5歳くらいの金髪巻き毛の少女が中の様子を伺っている。
 ティーカップをソーサーに戻し、モビウス1は立ち上がった。
 ドアの前に歩み寄り、目線が同じくらいになるようにしゃがむ。
「……やあ、」
 声を掛けると、少女は恥ずかしそうにもじもじしている。
 暫く様子を見ていると、少女は思い切ったように口を開いた。
「……おじさん、パパの友達?」
「お……」
 子供とはなんと無垢なのだろう。
 いやそうではなくて、モビウス1はまだ20代後半である。おじさんと呼ばれたくない。
 が、ここでそこを指摘したらこの子、泣くだろうなと思い直す。
「……ああ、友達、と言うよりも俺を助けてくれた人、かな」
「おじさんも、お空を飛んでたの?」
 そうだよ、と頷くと少女はもうひとつ、質問を投げかけてきた。
「お空って、怖くない?」
 その問いに、モビウス1は戸惑った。
 彼が飛んでいたのは戦場の空だ。怖くない方がおかしい。
 しかし、エアイクシオンで旅客機の副機長を務めている今の方が怖い気がする。
 逆を言えば、戦場の空でこそ、彼は自由に飛べていたのではないだろうか。
 彼女とともに飛んだ空が、懐かしくて恋しい。
 少し考えて、モビウス1は答えを口にした。
「空はね、確かに怖いかもしれない。だが空にしかない自由がある」
「自由?」
「ああ、その自由の一つが、『ソラノカケラ』だ」
 そう言って、モビウス1は上着のポケットから小さな袋を取り出した。
 それを、少女に手渡す。
「くれるの?」
 少女の言葉にモビウス1が頷く。
「……ありがとう」
 真っ赤になった少女が「開けていい?」と尋ね、モビウス1が再び頷く。
 少女が袋を開け、中身を取り出す。
 それは、一本のペンダントだった。
 天使の翼が虹色に輝くパワーストーンを包み込んだモチーフのそれに、少女の顔がぱあっと輝く。
「おじさん、ありがとう!」
「おやおやエヴァ、そこにいたのかい」
 ドアの向こうから、スカイアイの声が聞こえる。
 続いて、少女が抱きかかえられた。
「やあ、モビウス1。よく来てくれた」
 少女を抱きかかえたスカイアイが、モビウス1に微笑んでみせた。
「その子がマイエンジェルか」
「ああ、エヴァンジェリンだ。エヴァって呼んでやってくれ。エヴァ、挨拶は済ませたのかい?」
 スカイアイがここまで子煩悩だとは思っていなかった。
 きっといい父親なんだろうな、と思い、思わず見とれる。
 そのモビウス1の様子に気づいたか、スカイアイがニヤリとする。
「……やらんぞ?」
「要るか」
 即答だった。
 酷いな、君はとスカイアイが苦笑する。
「まあ、立ち話もなんだしお茶が冷める。部屋で話そう」
 そう言い、スカイアイはモビウス1をソファに連れて行く。
 再び応接室のソファに腰掛け、モビウス1は向かいに座ったスカイアイを見た。
「悪いな、心配をかけさせたようだ」
「気にするな。退役時の君のあの落胆ぶりを見ていれば誰でも手を差し伸べたくなるさ」
 スカイアイが言い終わったタイミングで再びドアが開き、先ほどの女性が入ってくる。
「紹介が遅れたな。マイハニーだ」
「はじめまして、アンジェラです。少しでも貴方のお役に立てればいいのだけれど」
 アンジェラが自己紹介し、それに合わせてモビウス1も会釈する。
「スカイアイには世話になりました。プライベートは初めてですが、いい父親のようだ」
 エヴァンジェリンを見ながら、モビウス1はそう言った。
「なんか意外だな」
「何が。モビウス1、君は……」
 反論しようとしたスカイアイだったが、すぐに口を閉ざす。
 モビウス1の、カップを持つ手が微かに震えていることに気づいたからだ。
「……やはり、彼女のことが?」
「NATさん、でしたか……主人から聞いております」
 NATが姿を消してすでに数ヶ月。
 ジャッジメント・デイ作戦(メガリス攻落)で彼女が姿を消した時はまだ多くの隊員が希望を持っていた。しかし、救命ボートに彼女の姿がなかったという事実、そして時間の経過とともに彼女の生存を絶望視する人物が増えてきた。
 その中で、スカイアイは彼女の生存を信じる数少ない一人だった。
 何処かに漂着しているのだ、と。
 だが、彼女の生存を一番信じていなければいけないモビウス1が諦めているというのが現実だった。
「あいつは……もう、希望が残されていない」
「君は、何かを知っているのか?」
 俺に言えないなら、アンジーに伝えるだけでもいい、と珍しくマイハニーという単語を使わなかったことからかなり真面目に考えてくれているらしい。
 小さく首を振り、モビウス1はため息をついた。
「話しても理解できるかどうか」
「……そうか、」
 そう言って、スカイアイは立ち上がってエヴァンジェリンを抱き上げた。
「エヴァ、向こうでパパと遊ぼうか」
「……?うん!」
 一瞬キョトンとしたエヴァンジェリンだったが、すぐに空気を察したのかスカイアイに抱きつく。
「スカイアイ、」
 部屋を出ようとするスカイアイの背に、モビウス1が声をかける。
「アンジー、少しモビウス1の話を聞いてやってくれ。君なら信用できる」
「分かったわ。後でいい心療内科も紹介しておきます」
 アンジェラがスカイアイに歩み寄り、二人と軽くキスをかわす。
「エヴァ、パパの言うことをちゃんと聞くのよ?」
 その言葉を聞いた二人が部屋を出る。
 二人きりになった室内。
 アンジェラがモビウス1の向かいに腰掛ける。
「大陸を救った英雄、という評価は重かったでしょう」
 不意に、アンジェラがそんなことを口にした。
「英雄か……愛した人間一人守れなくて、俺は、大陸の平和よりあいつと一緒に飛び続けるべきだったんだ」
 それが本心だったのかどうかはモビウス1にも分からなかった。
 ただ、NATの話を分析すれば、自分はストーンヘンジを破壊するべきでは、サンサルバシオンを解放するべきではなかったのだ。
 自分が英雄にならなければ、彼女は生き続けていたのではないか、と。
「……そう、」
 アンジェラの、モビウス1を見る目つきが変わる。
「彼女は、それを望んでいたと思う?」
「分からない……だが、あいつは、『世界』に殺された……」
 この世界の存在ではなかった彼女を、世界は排除した。
 ただ自分を英雄に仕立て上げる駒としてこの世界へと呼び出され、用済みになったから処分した。
 そんな、この世界を憎みたかった。
 彼女をこの世界へと誘った存在を憎みたかった。
「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら。信じる信じないは別として、話さなければ何も始まらない。でも、理解する努力はできるわ」
 はっとして、モビウス1がアンジェラを見た。
 そうだ。
 NATが失踪する前日、自分も同じことを言ったのではなかったのか。
「理解しようとする努力はできる」と。
「……貴女は、運命は変えられると思いますか?」
 かすれた声で、モビウス1が尋ねた。
「世界が人を殺すというのが運命なら、それを覆すことはできないのでしょうか」
「運命……ね……」
 アンジェラが呟く。
「私、運命は信じない人なの。人間の一生を決めるのは人間だけ。その人生の中で何が起こるか、なんて決められていないと思うわ」
 そう言って、ふ、と笑う。
「まあ、強いて言うなら―――信じていれば、未来は自分で決められる。メビウス1、貴方は、彼女が帰ってくることを信じなければいけなかった」
 決められないが、決められる。
 人間の「信じる」力はそれを可能にする。
 つまり。
「俺は……間違ったことを、信じた……」
「でもまだ絶望するには早いわ。確定していないんでしょう?」
 NATの戦死は。
 まだ生きている、と信じてもいいのか?とモビウス1は自問した。
 いや―――
 信じることができない。
 戦死が確定した時の絶望を考えれば、根拠のない希望は持つことができない。
 このまま、確定するまで諦めるしかできない。
「……そう、それが貴方の答え……」
 モビウス1の答えに、アンジェラは両手を組んで目を閉じた。
 何が彼をここまで絶望させたのか。
 彼は一体何を知っているのか。
 彼が話した内容から、キーワードを分析する。
 気になるのは「世界」と「運命」。
 NATの失踪は自分の、いや人智の及ばない何か壮大なものが絡んでいるのか。
 いや、そんなはずはない。
 解明できない謎はない。そう信じているはずだ。
「……世界に殺された、というのが私には分からないの。この場合、神、と解釈してもいいのかしら」
「……神、か……イレギュラーな存在を排除しようとしたというのなら、世界は神と同義になるか」
 ますます分からなくなってくる。
 これは下手に治療を受ければ彼は狂気を宿したと世間に認識されるだろう。
 アンジェラは気づいていたが。
 これは狂気ではない、計り知れない現実を知らされたのだとは。
「教えて。一体、貴方は何を知ったの」
「世界の……概念とでもいうか……この世界は、支配されているのだと……」
 そこまで言ってから、モビウス1ははっとして頭をあげた。
「忘れてくれ、今の」
「世界の概念?」
 アンジェラがそのキーワードを見逃すはずがなかった。
「どういうことなの、教えて。教えてくれないと、貴方のその発言は、ただの妄想になってしまう」
「……妄想でもいい、どうせ誰も分からない」
 どうしてそう決める、とアンジェラは訊いた。
 同時に、これ以上深入りしてはいけないのかもしれないという直感もある。
 モビウス1は何を知ったのか。
 お願い、教えて。と彼女が再び頼む。
 本来ならカウンセリングというものは言いたくないことを無理に聞き出す作業ではない。相手が話したいことを聴くだけだ。
 だが、これはカウンセリングではない。
 確かにカウンセラーの資格は持っていたが、このように身近な人間の話を聴くのは色々と余計な感情が混ざる。
 だから、アンジェラは少し強引だと理解しつつも彼の知っていることを聞き出そうとしていた。
「世界、とは何なの」
「……」
 モビウス1が沈黙する。
 もしかして、話してもいいのかもしれない。
 暫くの葛藤。
 ぽつり、と呟くように言う。
「あいつは、元々はこの世界の人間ではない、と言っていた」
「……この世界以外に、世界があるというの?」
 全く予想もしていなかった言葉。
 そして、線がつながる。
「……つまり、異物を排除しようとする免疫機能が働いた……?」
「世界に殺された」というのはそういうことなのではないか。
 NATがこの世界の人間でないと言ったことが逆に彼女の妄想ではなかったのかという可能性も考えたが、写真で見せてもらった彼女の髪色を考えればそれもあるかもしれない、と思う。
 軍人でありながらあの様な髪色に染めるということはないだろう。
 モビウス1が小さく頷く。
「俺を英雄にするのが『マスター』に与えられた使命だと言って、それが達成されたからもう用済みだ、と……」
「まさか、神が、彼女を……」
 自分が理解できる言葉に置き換えれば、神が全てを操っているということになる。
 神の存在は否定しないしむしろ日曜日の礼拝には欠かさず出席しているほどの敬虔なクリスチャンである。
 その、神が一人の人間を弄んだ、ということなのか。
 そうかもしれない、とモビウス1が呟く。
「運命は変わったと思った、だが……変えられないのだろうか」
「未来を決めるのは人間だけよ」
 アンジェラが言い切った。
「貴方は未来を決めた。ただ、その決めた未来が望んだ未来にならなかっただけ。それを、受け入れられないのは分かる……」
「結局、受け入れるしかできないのか……」
 望みはどこにもないのか。
 いいえ、とアンジェラが首を振る。
「受け入れられないなら、彼女が帰って来る未来を望むべき。望まなければ、本当に帰ってこないわ」
「……」
 望めるのだろうか。
 望んでもいいのだろうか。
 彼女が、生きていると。
 そう考えたら、急に涙がこみ上げてきた。
 紅茶が入ったカップに、波紋ができる。
 彼の肩が細かく震え、それから両手で顔を覆う。
「俺は……」
 それ以上、言葉が続かなかった。
 アンジェラが立ち上がり、モビウス1の横に立つ。
 それから腰を屈め、そっと抱き寄せた。
「彼女は何処かで生きている。そう、信じてあげて」
 自分の腕の中で啜り泣く彼に、アンジェラは優しく言い聞かせた。
 勝ち取れ、さすれば与えられん、と。

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天使(アンジェラ)と福音(エヴァンジェリン)です。
モビウスに、いい知らせが届くといいなという伏線です。

・・・うん、モビウスも幸せになる権利はあると思うよ。


posted by 日向 夏樹 at 00:06| Comment(0) | 天使の福音(AC04二次) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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