2014年07月09日

魂の所在 3

第3話。
ここで一気に色んなことが判明します。

つーか、SFホラーのはず。SFホラーのはずなんだ。
だけど全然怖くない。
というか舌触りの悪いストーリーが書きたかったんです。
ざらりとした、不快感が残るストーリーを。

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2014/07/09 UP

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3.呼び起される記憶

 アカネを追って病院に飛び込み、無我夢中で追いかける。いくつもの角を曲がり、次第に人気のない場所へと進んでいく。「僕」も踏み込んだことのない場所に、幾ばくかの不安を覚えるものの、彼女が何かを知っているというのなら教えてもらいたい、という気持ちが先に立つ。やがて、彼女の白衣の裾が一つの角で翻り、姿を消す。それを追って角を曲がるも、彼女の姿はどこにもない。
「どこに行った!」
 タカユキがそう叫んで周りを見る。一般外来の病棟とは違い、薄暗い廊下に人の気配はない。「僕」も周りを見回すと、ドアの一つが少し開いていることに気が付いた。それをタカユキに話すと、そこにいるのか、とその部屋に向かって歩き出した。付いて行くと、部屋の奥からカリカリという聞いたことのある音が響いていることに気が付いた。あれは、コンピュータのHDDの書き込み音だ、と思いドアの上の室名プレートを見ると「保管庫」と書かれている。
 そろそろと、タカユキを先頭に「僕」は室内に入った。そこには大量のコンピュータ―――そこそこの規模のスーパーコンピュータ―――が設置されていた。その熱暴走を未然に防ぐためのエアコンがフル稼働で、なんとなく肌寒い。
「なんだここは……保管庫って書いてる割にはどう見てもサーバルームだろこれ……」
 不思議そうな顔をして、タカユキが周りを見る。厳密にはサーバとスーパーコンピュータは違う、と言いたかったがそれは敢えて口にしない。しかし、「保管庫」と書かれているということは何かを保管しているに違いないのだろう。それが何か……「僕」には見当がつかなかった。暫く、二人で何か手がかりになるものがないか探して回る。部屋の中をぐるりと一周するが、結局何も分からない。大抵こういう部屋には情報を引き出す端末があると思っていたがそれすらない。暫く探し回っても無駄足だと判断し、「僕」は部屋を出た。
「何なんだこの部屋……」
 そう毒づき、タカユキは薄暗い廊下を見回した。そして、ぎょっとしたように「僕」を見る。
「お、おいお前……」
 そう声をかけられて、「僕」は我に返った。
「何だよ、お前、呆然として……何か知ってるのか?」
 そうだ。
 「僕」は、
 ここを知っている……?
 初めて来たはずなのに感じる既視感。自分はこの廊下を「運ばれてきた」記憶がある。
 それは、自分の中にある記憶と、全くつながりも整合性もない記憶のカケラ。
 まさか、と「僕」は呟いた。呟いてから、視線を巡らせ、そこに目的の部屋があったことに気付く。
 ゆっくりと、足を運ぶ。膝が笑って、思うように歩けない。タカユキも「僕」の後を追いかけ、その部屋の前に立つ。
 そこには、「保存サーバ」と書かれたプレートが掲げられいた。
 ここだ、と呟く「僕」の声が廊下に響く。どういうことだ、とタカユキが「僕」を見た。そんなことを聞かれても分からない。ただ、「僕」はここを知っているだけだった。中に何があるのか、この部屋を開けないと分からない。
 「僕」の視線がドアの横のタッチパネルに投げられる。そこに表記されていたドアの開閉状況は「開」。厳重な管理が必要なはずのこの部屋の鍵が開いているということは。
「ここに……あいつがいるのか……?」
 それはどうだろうか。だが、開いているということは誰かがいるのかもしれない。
 「僕」はドアノブに手をかけた。ゆっくりと、ドアを開ける。それでも中を見るのが怖くて、目をつぶって部屋の中に踏み込む。数歩入り、タカユキも部屋に入ったことを気配で確認してから「僕」は目を開けた。
「……な……んだ、これ……」
 「僕」の後ろで、タカユキがかすれた声で呟く。「僕」も同じだ。部屋の中を一目見ただけで喉がカラカラに乾き、声が出ない。
 そこにあったのは、多数の、大人が一人入ることができる巨大な試験管状の設備だった。いや、「入ることができる」ではない。むしろ―――
「人が、入っている……?」
 タカユキの呟き通り、その設備のほぼ全てに、人影が見えた。それも―――
「どう、いうことだ……」
 設備と「僕」を交互に見比べ、タカユキが呟く。
「……お前はここにいるのに……なんでここにも……いるんだ……?」
 頭がすっかり混乱してしまい、何を言っているのかタカユキも理解していなかった。それでも、彼の言葉は間違っていない。
 設備の中に浮いていた人影は、全て、
 「僕」
 だった。
 そっくりさんとかそういうレベルではない。どこからどう見ても、「僕」だった。
 この施設と、この人数を考えれば容易に推測できる。
「まさか……クローン……」
「そうよ」
 不意に、アカネの声が響いた。直後、設備の一つの影から現れる。
「ここは試験体の保存サーバ。試験体が深刻なダメージを受けた際に記憶を転写して世に送り出すための施設よ」
 その声を聞いて、「僕」は思い出し、そして納得した。この部屋から記憶を転写する転写室に移動するまでの記憶が「僕」本来の記憶。事故以前の記憶は、「僕」ではない別の「僕」が体験、もしくは転写された記憶なのだ。それをアカネに問うと、彼女は否定せずに頷いた。
「そう言えば、タカユキ……だったかしら、貴方は都市伝説の話をしたわね。そうよ、その都市伝説は事実。この研究施設ではヒトの記憶をコンピュータに抽出し、別の個体に転写する技術を研究しているの。『生命の再生』と都市伝説では伝えられているけど、概ね間違ってはいないわ」
「その被験体がこいつだというのか!」
 アカネが、小さく頷く。
「『彼』は自ら望んでこの研究に同意したのよ。『死』の概念を覆すために」
 「死」の概念を覆す……?それは、生物が「死」から解き放たれる、ということなのか?
 それは危険だ、と「僕」は思った。確かに、記憶を転写すれば肉体が朽ちても新たな肉体で「蘇る」ことは可能だろう。しかし、それでいいのか?「死」という概念を消去して、本当にそれでいいのだろうか。そんなことがあっていいはずがない。ヒトは、生物として「死」を受け入れなければいけない。それを受け入れないのは神に対する叛逆だ。
「……そうか、君はそう言うか」
 不意に、後ろから主任の声が聞こえた。振りかえると、入口に主任が立っていた。「僕」の主張を聞いていたのだろう、その面持は険しい。
「『彼』はそんなこと言わない。『死』を克服することこそが人類が進むべき道だと言っていた」
 嘘だ、そんなことを「僕」が言うはずがない。何かの間違いなのではないのか。
 主任が、言葉を続ける。
「やはり、記憶転写はまだ研究段階だというのか。いや、記憶転写はできてもベースの人格が同調しない、ということなのか。これは君の脳を詳しく調べる必要があるな」
 ぞくり、と背筋を冷たいものがはしる。同時に、「僕」は理解していた。いつもの検査、それは確かに脳のMRIを取っていたかもしれないが睡眠状態時にわざわざここまで「僕」を運んで記憶のバックアップを取っていたのだと。さらにあの事故で「僕」は死んでいて、この施設で保管されていたクローン(今の「僕」)に記憶を転写し、何事もなかったかのように世に放ったのだ、と。
 「僕」の脳を調べる、それなら普段からMRIで確認していることだ。主任が「敢えて」言うということは―――
 「僕」の考えが伝わったのか、主任が一歩こちらに歩み寄る。
「MRIだけでは足りない、解剖して調べてみないと……」
「何をバカな!」
 「僕」達の会話を聞いていたタカユキが叫んだ。
「こいつはこいつだろ!お前らの実験で思い通りの結果にならなかったからと言って殺すのか?これが公になれば―――」
「このプロジェクトは国が認めている。人類が『死』を克服できるのなら多少の犠牲は厭わん、とな」
「な―――」
 国に認められている、だから実験体である「僕」の命はどのように扱ってもいい、ということなのか。そんな人道に背いたことを、国が認めるとは……
「どうせ失敗作だ。それに君の代わりはいくらでもいる」
 ぐるりと設備を見回し、主任が言った。さっき抽出した記憶を受け継いだ次の君が何事もなかったかのように社会に戻るのだ、と。
 嫌だ、と「僕」は後ずさった。それを追う主任。部屋の出口は主任の方が近く、「僕」は明らかに袋の鼠だった。万事休す、ここまでなのか、とタカユキも思ったその時。
「逃げて!」
 突如、アカネの声が響いた。同時に「僕」と主任の間に何か赤いものが飛来し、直後、辺りがまっ白い煙に包まれる。
「な……消火器!?」
 消火器が吐き出した消火剤で視界が閉ざされ、その場にいた全員がうろたえる。「僕」もその例に漏れなかったが、すぐに腕を掴まれる。
「こっちよ!」
 アカネに腕を掴まれ、「僕」はタカユキの姿を探した。逃げるなら、一緒でないと、と思ったが彼もすぐに「僕」の居場所を特定し、腕を掴む。主任が「僕」を探すが、捕まる前になんとか部屋を飛び出す。そのままアカネに連れられ、「僕」は病院を脱出した。

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次回、最終回。

結局「僕」は何者だったか、って感じですね。
んでもって、次回タイトルの意味が明かされる・・・はず。


posted by 日向 夏樹 at 21:32| Comment(0) | 魂の所在 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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