2014年07月10日

魂の所在 4(終)

「魂の所在」最終回。
結局、魂とは何か、とか記憶とは何か、という話になります。

最終的に「僕」が出した結論とは。

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2014/07/10 UP

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4.魂の所在

 どれくらい走ったのだろうか。夢中になってアカネと走っていたが、彼女が立ち止まったことで「僕」も足を止める。追っ手もなく、少しほっとして周りを見たら。
 そこは墓地だった。数多くの墓標が立ち並び、夕暮れ前の弱まり始めた太陽の光を受けて長い影を落とし始めている。
「ここは……」
 タカユキがぐるりと周りを見て呟く。
「ここよ」
 一つの墓標の前に歩み寄り、アカネが手招きする。「僕」も歩み寄り、墓碑銘を見た。
 暫くの沈黙。
 ごくり、と唾を飲み込む音が響いた気がした。
「嘘……だろ……?」
 それは「僕」が言いたかった台詞だった。
 墓碑銘として刻まれていたのは、「僕」の名前だった。しかし、刻まれていた享年は「僕」が生まれる数年前。つまり、「僕」のオリジナルは、
「そうよ、貴方のオリジナルは貴方が生まれる数年前に事故で死んでいる。亡くなる直前に、主任に言ったそうよ。『僕の死が未来につながるなら喜んで実験体になる』と」
「そんなことがあってたまるか……」
 弱々しく呟くタカユキ。そして、「僕」を見る。
「俺が見ていたのは何だったんだ。それに……こいつがそんなことを言うなんて思えない」
 その通りだ。「僕」は「死」を克服しようとなどは思っていない。「僕」のオリジナルはそう願ったのかもしれないが、それは間違いなのだ。
 アカネが、数歩歩き、それからくるりと振り返る。
「どうして私がここに連れてきたか分かる?まあ、深い意味はないのだけど、貴方と『彼』は別人だ、という証明がしたかった。それだけよ」
 その瞬間、タカユキが動いた。アカネの胸倉を掴み、視線だけで殺せそうな勢いで睨み付ける。
「何を今更!お前がこいつの検査をしなければこいつは何も知らずに生きることができた!こいつの人生を滅茶苦茶にしておいて、なにが『別人だ、という証明がしたかった』だ!ふざけるな!」
「……」
 アカネは否定しなかった。肯定もしなかったが、その態度は肯定した、とも言えるだろう。彼女が自分の胸倉を掴むタカユキの目をまっすぐ受け止める。その自信に怯み、タカユキは手を放した。
「そもそも、『魂』ってどこに宿るのかしら」
 唐突にそう告げられ、「僕」とタカユキは顔を見合わせた。別人の証明をしたいという割に、話の関連性がいまいち掴めない。それでも、「僕」は「僕」なりの答えを口にした。「魂」はその人間、いや、生物一つ一つに宿るのだ、と。
 ところが、アカネはそれを否定した。
「……貴方の考えは漠然としすぎているわね。それじゃ質問を変えるわ。貴方の『魂』はどこに宿っていると思う?」
 自分の「魂」の所在?そんなことは考えたことがなかった。どこに宿るか、それは思考を司る「脳」なのか、それとも肉体を維持する「心臓」か……そう迷いがちに答える。それに対しアカネはなるほど、と呟いた。
「確かに、『脳』なら脳死状態になると『魂』は消失したことになるし、『心臓』なら肉体が朽ちるときに『魂』は消失する。そんなところかしら」
 彼女は一体何を言いたいのか。話が全く読めてこない。そんな「僕」にお構いなく、彼女は続ける。
「それじゃ、『生物』の定義は何になるのかしら」
 それは、憶えている。生物の授業で学んだことだ。「生物」とはタンパク質からなり、酵素をはじめとした代謝の働き、そして核酸からなる遺伝子の働きを行う、その働きが「生命」となる、そう教わったものだ。ただしウィルスやリケッチアは特定条件が揃わないと増殖できないということから生物か、非生物かで長年議論されていたはずだ。
 それを告げると、彼女からは「教科書やwikiに記載されている完璧な解答ね」と返された。
「それじゃあ、最後の質問をするわ。貴方の肉体を構築している細胞の一つ一つ、それは『生命』?」
 その瞬間、背筋を冷たいものが流れた気がした。細胞の一つ一つ。「僕」が答えた模範解答から当てはめると―――それは個々の「生命」を持つということになる。そして、アカネが言おうとしたのは―――
「そうよ。『魂』は細胞の数だけ存在する。別の言い方をすれば、『魂』が宿るのは細胞。いくら同じ遺伝子構造であったとしても、同一の細胞でない限り、『魂』も別物になるわ」
「それが……お前の、別人という証明なのか……?」
 タカユキの問いに、アカネが小さく頷く。だが、その返答に疑問も出てくる。彼女は、「僕」を実験体にしているチームの一員であるはず。それなのにどうして「僕」を別人だと言うのか。それは実験の障害になるだけで、進展にはならない。それに「死」を克服すると言いながら、これでは克服に遠く及ばないではないか。思わず、そう言うと彼女は「これは私の個人的な意見だけど」と前置きして説明してくれた。
 生物のクローニングは随分前にほぼ確立された技術である。クローン特有のテロメア短縮を抑える技術も確立され、クローンが短命という理論は覆された。また、クローニングされた生物は再び幼体から成長させなければいけなかったが最近の研究でクローン元と同じ成長段階で発生させることもできるようになった。「僕」がオリジナルと全く違う成長段階なのはオリジナルが死亡した時はまだその技術が確立されておらず、多数の「僕」を同時に発生させることで年齢の誤差を最低限にしている、ということらしい。それだけではない。クローニング技術の発展と時を同じくして生物、特に人間の「記憶」が解析され、それをコンピュータに抽出、別の個体に転写する技術も開発されつつあった。その主な実験体が「僕」だというわけだ。
 しかし、問題点もあった。前の「僕」から次の「僕」へ記憶を転写しても、全く同じ存在にはならなかった。それは「今」の「僕」にも当てはまることだ。どこかで人格や嗜好、思考などに齟齬が発生し、それは転写を繰り返すたびに大きくなっていった。それでは、完璧に「死」を克服したことにはならない。主任は、何度も観測を続けていたがその謎は解明できなかった。
 そこで彼女は一つの仮説を立てた。それが「生物」、「生命」を根本から見直した「『魂』は細胞の数だけ存在する」だった。とはいえその仮説にも矛盾が存在する。細胞一つ一つが一つの生命体なら、「人間」とは何なのか、と。
 複合生命体、と突然彼女は新しい単語を口にした。
「複数の生命がつながり、助け合うことで一つの、全く別の生命体を構築する。それが多細胞生物の基本。でも、それだと『記憶』はどうなる、って話になるわね」
 そうだ。記憶が置き去りになっている。結局、記憶とは何なのか。
「私の仮説よ。『記憶』とは、生物が意図的に作り出した、細胞一つ一つの『魂』をつなぎとめる『魂』。そうなると『記憶』がない存在は細胞崩壊する、という話になるわね。でも……生物は皆、生まれたときから『記憶』を紡ぎ始めている。あの部屋にいたクローン体も同じよ。眠っていても彼らなりの『記憶』を紡いでいる」
 つまり、と彼女は結論を出した。
「その眠っているときの『記憶』と転写した『記憶』の間で齟齬が発生、同時に肉体に宿る『魂』の相違も相まって別人になってしまうのじゃないかしら」
 あまりに壮大すぎる話に、「僕」は混乱した。結局、「僕」はオリジナルとは違うという証明にはなったかもしれない。それでも「僕」は人為的に生み出された存在。どうすればいいというのだ。タカユキが言うとおり、何も知らなかった方が幸せに生きられたかもしれない。いや―――
「『記憶』は脳に宿るという研究結果が出ているわ。そこで脳に刺激を与えて貯まった『記憶』を完全に消去する技術が研究されている。転写先の脳にある『記憶』を消去して、別の『記憶』を転写したら齟齬は減るのかしら」
 それは、否だと「僕」は思った。先ほどの理論を使うなら、クローンでも細胞一つ一つに宿る「魂」が違うのだから、結局別人になってしまうはずだ。つまり、この研究は完成しないのではないのか。それとも、何か策はあるのか。
「『魂』はまだあるという概念だけよ。でもその『魂』を観測することができればいずれは支配することができる」
「そのためにこいつを犠牲にするのか?これ以上こいつを苦しめるのか?」
 食って掛かるタカユキにアカネは小さくため息をついた。それは「しかたのないことよ」という意思表示なのだと「僕」は判断したが、彼女はため息の後に首を振った。
「貴方は、どうしたいの?」
 思いもよらなかった言葉。そんなことを聞かれても、「僕」には選択肢がない。どうすればいい、と困惑気味にアカネを見ると、彼女は「僕」が答えを出すまで待つつもりだ、と言わんばかりにこちらを見ていた。
 暫くの沈黙が続き、夕闇の帳がだんだん降りてくる。夕焼けが最後の瞬きを見せ、完全に日が暮れたとき、「僕」は答えを口にした。
「……そう、それが貴方の答えね」
 アカネが、ぽつり、と呟く。
 そこに否定も肯定もなく、「僕」の答えは本当に正しかったのかと一瞬迷う。否、間違っていてはいけない。
 「僕」の答えに何も答えず、アカネはくるりと踵を返した。その行動に面食らうが、次の彼女の言葉で全てを理解した。
「いきなさい。それが貴方の選んだ道なら、私には止める権利がない。でも、少しでも後悔があるのなら、一瞬で全てが絶望に変わるわよ」
 そう言って、彼女が歩き出す。
「貴方は貴方よ。『彼』と相容れない存在のね」
 もう会うこともないでしょう、という言葉を残し、アカネが墓地を去る。それを見送り、「僕」もタカユキを見た。
「お前……本当に、それでいいのか……?」
 「僕」の答えが信じられなかったのか、それとも納得できなかったのか。それでも、「僕」は構わない、と頷いた。
 何故なら―――
「僕は、誰が何と言おうとも、僕は『僕』だから。誰が正しいかなんて、最終的には一般人が決めることだけど僕は僕の正しいと思った道を歩く」
 「僕」の言葉に、タカユキは「そうか」、と一言だけ呟いた。それ以外、呟くことができなかった。それだけ「僕」の決断は揺るぎのないものだった。
 タカユキが少し頭を掻き、それから「僕」の背中を叩いた。
「ほら、行くぞ。いつまでもこんなしみったれた場所にいられるか」
 そう言って歩き出す。「僕」も、タカユキについて歩き出した。
 「僕」の未来は「僕」が築く。それは誰にも干渉できないし干渉する権利も義務もない。ただ、心のどこかで「これでよかったのか」と迷うのは自分の決断が正しいとも間違っているともアカネに言われなかったからか。間違っている、と言われても「僕」はこの決断を覆すことはなかっただろう。それでも、何か言われたかった。
 歩きながら、空を見上げる。無数の星がきらめく夜空に、一縷の希望を寄せる。
 自分のこれからの行動は、赦されることなのだろうか。
 星々だけが、それを知っているのだろう。
 そして、その光が「僕」の背を押す。
 「自分の信じる道を迷うことなく歩け」と。


―――Fin.


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まあ独自解釈なんですけどね。
でも最終的に魂というものが観測されたら叛逆まどマギじゃないけど支配も可能なんじゃないかなと。
人類の未来、きっと死の概念が覆されるんじゃなかろうか。

次回から何をUPしますかねえ・・・色々たまってるのはたまってるんだが。


posted by 日向 夏樹 at 13:19| Comment(0) | 魂の所在 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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