カイトさんはオレの中で切ない系担当です。
んでもって死亡フラグ係のような気がする。
しかしだ。
えすこんINF遂にスコア0を記録してしまった(対人戦で)
ちょっと力みすぎたかな。
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2014/08/03 UP
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追憶 -End of Eternity-
カラン、と扉に付けられていた鐘が鳴った。
「‥‥あれ?」
扉の外から中を覗き込んだ人物が声を上げる。
「‥‥ここって‥‥Dawn Purpleじゃ、ないよね‥‥?」
自分は確かにいつも通うバー「Dawn Purple」のドアを開けたはずだ。
それなのに、内装は似ているもののマスターは別人、ウェイトレス兼用心棒のノエルもいない。
「いらっしゃいませ」
突然の来客にも臆せず、マスターがにこやかに声をかけてくる。
首を傾げながら、客―――NATは、店の中に入っていった。
今時珍しいLP盤がしっとりとしたBGMを店内に響かせている。
店内を見回すと、カウンターだけの席の一つに先客がいた。
背中に掛かるほどの黒髪、ブルーのパイロットスーツを着た女性。
その右肩に取り付けられたベルクロのパッチを見た瞬間、NATは硬直した。
見覚えのあるパッチ、では済まされない。
ブルーとグレーで構築されたリボンにも似たメビウスの輪。
そう、メビウス中隊のエンブレムだった。
だが、メビウス中隊は、中隊と言いながら構成員は自分とモビウス1の二人で組んだF-4E1機の隊。他に隊員が存在するはずがない。
NATが硬直し、その女性を眺めていると、その視線に気づいたか女性はグラスに残っていた酒を飲み干し、こちらを見た。
「‥‥遅かったな」
ハスキーな声が店内に響く。
その声にNATが我に返り、彼女の隣の席に座った。
「マスター、ジントニックを」
女性が注文し、NATも「オレにもジントニックを」と注文する。
「かしこまりました」とマスターがカウンターの中を移動する。
それを見送り、女性が再びNATを見た。
「‥‥こうやって、顔を合わせるのは初めてだな」
そこまで言われて、NATはようやく理解した。
「‥‥エーヴィヒカイト‥‥」
NATがこの世界に顕現する直前にモビウス1を庇って被弾し、戦死したエーヴィヒカイト。
彼女の魂は転生を拒み、NATが人間として生まれ変わるための魂として自らを差し出した。
だから、こうやって顔を合わせることができるとすれば―――
「‥‥夢、なのかな?」
自分の中で、初めて向き合える。
ふっ、と女性―――エーヴィヒカイトが笑った。
「そうだな。これは貴女の夢の中だ、NAT。だから、目覚めれば私は消える。貴女の中に」
「‥‥そっか」
NATがそう呟いたタイミングで二人にジントニックが差し出され、同時にグラスを取る。
二人とも、何も言わずにグラスを軽く掲げ、そして、
『モビウスに、乾杯』
カツン、と、グラスをぶつけた。
「‥‥モビウスは、どうだ?」
一口あおり、エーヴィヒカイトが尋ねる。
どうもこうも、とNATが呟く。
「あれだけひどいトラウマを植え付けたんだよ?何かある度オレが消えるんじゃないかと怯えてる」
「トラウマを植え付けたのは私も同じだ」
二人とも、モビウス1の前から姿を消したという過去がある。
NATは1年の時を経て再会を果たしたが、エーヴィヒカイトに関してはNATの魂となって戻ってきたとはいえその名の通り永遠となってしまった。
だから、NATが戻った今でも再び自分の前から姿を消すんじゃないかとモビウス1は恐れていた。
困った奴だ、とエーヴィヒカイトが呟く。
だがその言葉とは裏腹に、楽しそうな顔をしていた。
「モビウスは、不器用な奴だからな」
「それはオレも思うよ。よくパイロットになれたなって」
しかも訓練課程を首席クリアでしょ?信じらんない、とNATが続ける。
「‥‥でも、だから英雄になる必要があったんだよね」
「‥‥貴女の記憶をたどれば、そういうことになるな」
二人は記憶を共有していた。
だから、語らずとも理解できた。
くいっとジントニックをあおり、NATがグラスに視線を落とす。
「‥‥ごめん」
思わず、そう謝った。
「何を謝る。貴女は何も間違っていないだろう」
不思議そうにエーヴィヒカイトが呟く。
「‥‥貴女の魂になることは、私が望んだこと。私がならずとも、誰かが貴女の魂になったはずだ。ただ‥‥他の人にモビウスを取られるくらいなら、私が‥‥」
「‥‥もしかして、妬いてる?」
エーヴィヒカイトがモビウス1に想いを寄せているのは理解していた。
最終的にNATの魂となることで彼と共に生きることはできるようになったが、彼が見ているのは彼女ではなくNAT。
だから、思わず訊いてしまった。
再び、エーヴィヒカイトがふっ、と笑う。
「妬いている、か‥‥その考えはなかったな」
「‥‥そっか」
それならいいんだ、とNATが再びジントニックをあおる。
暫くの沈黙。
少し躊躇ったが、NATは口を開いた。
「‥‥本当は、エーヴィヒカイトにしてほしかった?」
その問いかけに、エーヴィヒカイトが一瞬、沈黙する。
少し考え、彼女は小さく笑った。
「子供の名前か?私のTACネームにしたところで私が生まれ変わるわけでもないし、モビウスは貴女の魂に私の魂が使われていると知っているのだろう?だったらそんなもの必要ないだろう。モビウスが必要としているのは私ではなく貴女だ、貴女とモビウスでしっかり話し合って付ければいい」
その結論がエーヴィヒカイトになったというのならそれはそれでありかもしれないが、と呟いてから彼女はちょっと待て、と続けた。
「NAT、」
「ん?」
グラスの中の氷を回しながらNATが首をかしげる。
「どうかした?」
「どうかしたも何も―――妊婦が酒を飲むな!」
「‥‥あ、」
「あ、」で済む問題ではない。大問題である。
が、NATの視線が自分の腹部に落ち、それから軽くポンポンと叩く。
「‥‥エーヴィヒカイト、」
「何だ?」
「‥‥確か、ここって夢の世界だよね?」
そうだが、とエーヴィヒカイトが怪訝そうな顔をする。
だが、すぐに気付いてああ、と声を上げた。
「夢の中で飲んでも胎児に影響はない、か‥‥」
「現実に飲んでるわけじゃないしね。それに、どうも夢の中じゃ妊娠前っぽいし」
確かに、安定期を迎えて暫く経過しているのだ、そろそろ腹部の膨らみが目立つはず。
それでもそれが全く見られない、ということは夢の中でのNATはまだ帰還直後の状態なのだろう。
そこまで言ってから、NATは興味深そうに見てくるエーヴィヒカイトの視線に気づいた。
「‥‥?」
不思議そうな顔をして、NATが首をかしげる。
エーヴィヒカイトの手が、NATの頬に触れる。
その手が、なめらかに滑って唇に触れる。
「‥‥モビウスとは、どうだった?」
「?どう、って‥‥?」
キョトンとするNAT。
エーヴィヒカイトが、NATの唇に当てた指を自分の唇に当て、にやりと笑う。
「モビウスとのセックスは気持ちよかったのかと聞いたのだ。最後まで言わせるな恥ずかしい」
その瞬間、NATが真っ赤になって俯いた。
「え、あ、そ、それは‥‥」
記憶は共有しているのではなかったのか。
記憶を辿れば快楽も追体験できるだろうに、敢えて訊くとはエーヴィヒカイトも鬼である。
キョロキョロと視線を彷徨わせ、それからNATは口を開いた。
「う、うまいんじゃないかな‥‥?オレはモビウス1しか経験ないけど、すごく気遣ってくれるし‥‥」
「‥‥そうか」
ふと、遠くを見るような眼をしてエーヴィヒカイトが呟く。
「‥‥私も、モビウスとしたかった」
「エーヴィヒカイト‥‥」
呟いてから、NATはエーヴィヒカイトの記憶にアクセスした。
該当項目を検索、彼女が戦死する直前の記憶を拾い上げる。
「‥‥誘われておいてヤらないって、据え膳喰わぬは何とやら、だよね」
そう言えば自分が誘った時もモビウス1に拒否されたなあ、とNATが呆れたように呟く。
「‥‥でも、逆を言えば気を遣ってるんだよね。衝動のまま行動したら、後で後悔するって」
「‥‥そんな気遣い、正直いらないんだがな」
ジントニックのおかわりを注文し、エーヴィヒカイトが体ごとNATの方に向く。
「NAT、」
「‥‥何、」
急に改まったエーヴィヒカイトに、NATも姿勢を正す。
エーヴィヒカイトが首に手を回し、何かを取り外す。
「貴女に、これを」
そう言って彼女はNATの手に何かを握らせた。
NATが手を開き、手渡されたものを見る。
「これは‥‥」
それは、エーヴィヒカイトの認識票だった。
そうだ、モビウスを庇って被弾した彼女はミサイルがコクピット直撃ということも相まって遺体すら残っていなかった。
だから、彼に何も遺すことができなかった。
それだけが、悔やまれた。
NATが困惑した面持ちでエーヴィヒカイトを見る。
「オレがこれを受け取っても‥‥ここが夢の世界なら、現実に持って行くことは、」
「不可能、だろうな。だが、貴女に受け取ってもらいたかった。たとえ夢の中だったとしても」
その記憶はモビウスにも伝わるから。
「エーヴィヒカイト‥‥」
「私は、ここから出られない。だが、逆を言えば私はいつでもここにいる。会いたくなればいつでも夢の扉を開けばいい」
おかわりのジントニックを受け取り、エーヴィヒカイトは微笑んだ。
それから、そっと腕を伸ばしてNATを抱き寄せる。
「モビウスを、頼む。彼を、支えてやってほしい」
「‥‥勿論」
力強く頷き、NATが席を立つ。
何も合図することなく、二人は同時に手を出した。
何度か互いの手を叩き、そして握り合う。
「NAT、貴女を、信じている」
「任せといて」
NATがにやりと笑い、踵を返す。
「‥‥また来るよ。子供も一緒だといいんだけどな」
「いつか、見ることができると信じている」
再び、ドアベルがカラン、と鳴る。
「ありがとうございました」
マスターの声を背に、NATは店を出た。
「‥‥ん‥‥」
低く呻き、NATが目を開ける。
隣にはモビウス1が寝息を立てている。
時計を見ればまだ早朝、二度寝するか、と思ったが寝息を立てるモビウス1がなぜかいつも以上に愛おしくて、そっと手を伸ばす。
その時、彼女は自分が手を固く握りしめていることに気が付いた。
その手の中には硬い感触が。
なんだろう、と手を開き、彼女は唖然とした。
「え‥‥なんで‥‥」
握りしめていたもの。
それは、認識票だった。
思わずサイドテーブルのスタンドライトを点灯し、打刻された文字を見る。
「‥‥嘘‥‥」
エルザ=マリア・シュバルツ。
エーヴィヒカイトの本名だった。
遺体も残っていない、当然認識票など海に沈んだもの、それが何故。
夢の世界から、持ってきたというのか。
「エーヴィヒカイト‥‥」
こうなることを、分かっていたのだろうか。
そして、これは自分が持っていてはいけないような気がした。
「モビウス1‥‥」
そっと、彼の髪に触れる。
これはモビウス1に渡すべきものだ。
起きたら渡そう、と彼女は思った。
そう思っているうちに、モビウス1が寝返りをうってこちらを向き、それからうっすらと目を開けた。
「‥‥NAT、起きてたのか?」
「ん‥‥今、目が覚めたとこ」
モビウス1の頬に触れ、NATが微笑む。
「‥‥ねえモビウス1、エーヴィヒカイトと飲んだことはある?」
不意の質問。
一瞬面食らったようだが、モビウス1は首を振った。
「俺があいつといたのはスタグナントスラブに配属になってノースポイントへ撤退する間の数週間だけだ。一緒に酒を飲む、ということはなかった」
「そっか‥‥じゃあ、エーヴィヒカイトはジントニックが好きだったとかは分からないか」
何が言いたい、とモビウス1が首をかしげる。
だが、すぐに何かを思い出したかのように口を開いた。
「ノースポイントに到着して、余裕ができたら一緒に飲みに行きたいという話をしたことはある。確かその時ノースにうまいジントニックを出す店はないかと訊かれたことはあったな」
きっと、好きだったんだろうな、とモビウス1は続けた。
「‥‥その、エーヴィヒカイトに会ったんだ」
ぽつり、とNATがそう言うと、モビウス1は驚きで目を見開いた。
「会った、って‥‥どうやって」
「夢の中だけどね。ずっと、モビウス1のことを気にかけていたよ」
「‥‥そうか‥‥」
懐かしそうに、モビウス1が目を細める。
その手に、NATはエーヴィヒカイトの認識票を握らせた。
彼女の一連の行動に疑問を覚えたモビウス1だったが、スタンドライトの明かりで認識票に打刻された文字を見て驚いた。
「‥‥どう、いうことだ‥‥?」
NATがエーヴィヒカイトの認識票を持っていることが信じられない。
それにこのタイミングで、というのも理解できない。
「エーヴィヒカイトに託された。夢の中で」
「だが、どうやって現実世界に‥‥」
そう尋ねてから、もしかして、と呟く。
「リンクするのか‥‥?世界を越えて」
「分からない。だけど、これはモビウス1が持つべきものだと思う」
そう言ってから、NATはモビウス1の胸に顔を埋めた。
「モビウス1、愛してる」
「‥‥ああ、俺もだNAT」
エーヴィヒカイトには悪いが、ここに彼女が入る余地はない。
彼女の思い出は思い出として胸にしまっておくべきである。
今はただ、目の前のNATを全身全霊をかけて愛し、守ってやるべきだ。
優しくNATを抱きしめ、モビウス1はNATに聞こえないほどの声で呟いた。
「エーヴィヒカイト‥‥俺は、幸せになる」
「?何か言った?」
NATが尋ねるが、なんでもない、とモビウス1は答えた。
今はNATがいるから。彼女の中には新しい命が宿っているから。
その二人を、守り続けたいと思った。
永遠とも思えるその幸せに死という終わりが訪れるまで。
―――Fin.
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結局エロネタが含まれるのは何故だ。
・・・これでカイトさんの物語は終わりかな。
またどこかで出したい気もするけどネタがない。