2008年02月28日

海藤vs鎖神 (VP番外編)

SNSのクリスマス企画「朱く染まる雪」、後日談「白く消える想い」で絡んだライゼンさんからいただきました。
VP番外編とありますが、ライゼンさんが書いてる「Devine Force」の番外編でもありますね。

朱雪、白想は後日歓喜の歌に上げますが、白想で海藤さんが登場し、鎖神も彼を暗殺する依頼を受けたと言ってたところからこの話につながりました。
そしてここから因縁の関係が・・・

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2008/02/28 UP

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【番外編:海藤vs鎖神】

ここはとある町の倉庫街。
クリスマスの夜、死者十余名という凄惨な事件の舞台となった場所。
あれから数週間後のある日、一人の男がこの倉庫街に再び戻ってきた。
降り積もった雪を踏みしめながら、倉庫街を歩く。

「……ここも、相変わらずだな」

そう呟く男は、クリスマスの日にこの町を警護するために配属された海藤正樹。
彼がここに戻ってきた理由はひとつ、未だ解明していない倉庫街の事件での真相を確かめるため。
この事件は、捜査本部より『BloodyPort』――血塗れの港という事件名がついた。
しかし警察の頑張りとは裏腹に、犯人、動機その他多数の不明点で迷宮入りもそう遠くないだろう。

「ここに来れば、またあの女に会えるかと思ったんだが――」

海藤は、事件が起きて数日後にここで出会った女性のことを思い出す。
『私が殺した――』そう言った自称殺し屋の女性。
その真意は分からないが、彼女が促した銃弾の鑑定では、驚くべき結果が返って来た。
といっても、ここで話をしていた海藤としては、予想通りの結果となったわけだが――
そう、被疑者から摘出された銃弾と凶器の銃が一致していないことが判明したのだ。
これで第三者による事件の介入が明るみになったことになる。
捜査本部は再捜査で忙しく動き回る中、事の真相を知る海藤はあの日の倉庫街での話は誰にも言わなかった。
不一致が判明したところで自白した彼女を手配することはしなかったのだ。
それが警察として正しい判断だったとは思わない。
それでも海藤には、彼女を追うつもりはこれっぽっちも無かった。
それは彼女の話を信じていないということではない。
むしろ、彼女の話したことを信じているが故の選択だったのかもしれない……。

倉庫街の中央まで歩を進めた海藤は、ふとその歩みを止める。
そして天を仰いで、

「……また、雪が降り始めたか」

ポツリと一人呟いた。
ヒラヒラと舞い落ちる粉雪、その幻想的な光景を見ていた海藤は鋭く目を細める。

「……後付けられるのは苦手なんだがなぁ。
この場所では前例があるから、尚更な」

独り言のように言った海藤は、すぐに腰のホルスターから拳銃を引き抜く。
そして振り向きざまに横っ飛びに動くと、海藤がさっきまで立っていた場所を銃弾が奔る。

「へぇ、なかなかの反応速度だね……」

そう言って物陰から出てきたのは見た目10代後半ぐらいの赤い瞳を持つ青年だった。
手には一般的な青年には分不相応な拳銃を持っている。
銃口から煙が立ち上っているているところを見る限り、さっきの銃弾はあれから発射されたものだろう。
あの形状から見て、青年が手にしているのはFN社の『Five-SeveN』と呼ばれる自動拳銃だと推測する。

「一応、確認しようか。
アンタが海藤正樹だね?」

穏やかな口調とは裏腹に、その身のこなしには一切の隙が無い。
一瞬で相当の使い手だと判断した海藤は、自らも臨戦態勢を取る。

「……だったらどうした。
オレにはお前みたいな物騒な知り合いは居ないはずだが?」

青年はゆっくりと海藤に近づきながら、「俺の事はどうでもいい」と簡潔に答える。
だが途中でふと何か考えるような仕草をしたかと思うと、

「……でも、そうだな。名前ぐらい教えてあげようか。
俺は『BloodyBlue』……アンタが殺される名前だよ、覚えておいて」

最後に声のトーンを落として自己紹介兼殺害予告をする青年。
その言葉に得も知れぬ威圧感を感じた海藤は無意識に銃口を青年に向けていた。

「『血塗れの蒼』……か。この事件現場に相応しい名前だな。
……しかし、コードネームってことはどこかの組織の手のものか?」

その質問にBloodyBlue――以下B/Bと呼称――は何も答えない。
海藤は続ける。

「ま、何はともあれ簡単には死んでやれないんでね……」

「抵抗は想定内…… せいぜい足掻いてみて」

海藤は話が終わると同時に発砲。
それを見透かしていたようにB/Bは身を捻って銃弾をかわす。
今度はB/BがFive-SeveNを連射。
弾丸の軌道を見切ることも得意とする海藤だが、彼の撃つ場所はどこも先を読まれているかのように正確だった。
自分に勝るとも劣らない銃の腕前を見せ付けられた海藤だが、そこでショックを受けている暇は無い。
負けじとダブルイーグルを連射する。
そんな銃弾の雨をものともせずに海藤に駆け寄ってくるB/B。

「なんだこいつは……」

BLNに『BloodyBlue』という名のナンバーズは存在しない。
『だとしたら、こいつは一体――』そんな疑問が頭を過ぎる。
海藤は、まだ戦い始めて間もないというのに相手の驚異的な力量に驚かされるばかりだった。
ある程度まで海藤とB/Bの距離が縮んだころ、今度はコンバットナイフのようなものを出してB/Bは海藤に切りかかる。
それを海藤は咄嗟にダブルイーグルで受け止める。

「とんでもない奴だな、お前――」

「お喋りが好きみたいだけど、生憎俺は好きじゃなくてね」

B/Bは海藤の言葉を感情の無い声で遮る。
先ほどから感じていたが、彼は全ての動作を無表情、無感情で行っている。
まるで殺人ということに対して特別な感情を抱いていないようだ。
むしろ殺しも単なるひとつの仕事として捉えてるから感情は余計なものなのだろうか。

B/Bは後退して今度はFive-SeveNを発砲。
咄嗟の近距離射撃に不意を突かれた海藤だが、そこは機敏な反応で回避。
海藤は避けざまに数発の弾丸を発射。その弾丸は確実にB/B目掛け飛んでいく。
無茶な体勢にも関わらず驚異的な命中率で放たれた弾丸を避けながら、B/Bは納得する。
たかが警官一人に自分が選ばれた理由、どうやらこの男相手には役不足でもないらしい。
しかし相手の弾道をみていると、明らかにこちらの急所を外して撃ってきているようにも見える。
こちらは相手を殺す気で撃っているのに、相手にはその気はないのか?
これには彼も一言いわざるをえなかった。

「……手加減しているの?」

若干不機嫌そうな声で相手に問いかけるB/B。
それに対して海藤の答えは簡単なものだった。

「オレは極力殺しはしない主義でね」

その言葉でさらに不機嫌さが増したのか、

「国家権力ならではの善良な精神ってわけ?
警察って甘いね。だから好きじゃない」

皮肉っぽく言う。
今度は右手にナイフを握って再び接近戦を仕掛ける。
だが海藤には接近戦用の武器は無い。
自分にせまりくるナイフを右手に持つダブルイーグルで捌くことで精一杯の海藤は、完全に防戦一方の状態だ。
だが海藤も勝負を諦めたわけではない。
常に頭では勝機を探して、ナイフをかわしながらも随所で発砲し、相手の意表を突いている。

このままでは埒があかないと判断したのか、B/Bは再び後退。
今度はいきなり右手に持つナイフを上空へと放り投げる。
その行動に一瞬目を奪われた海藤だが、すぐに陽動だと判断。
視線を地上に戻すと同時にB/Bがいつの間にか構えていたFive-SeveNが火を噴く。
その初撃をかわした海藤だが、B/Bは続けて発砲しながら再び海藤に近づく。
その動きは海藤の狙いをかく乱するように、彼を中心とした円運動の動き。
徐々にその距離が縮まっていくのが分かる。
相手の意図が見えない海藤は、自分に迫り来る数発の銃弾をかわしながら応戦。
だが、驚異的な瞬発力で海藤との距離を詰めたB/Bは海藤の目前で銃を降ろす。
不審に思った海藤の目の前に、先ほどB/Bが投げたナイフが落ちてきて――

「しまっ――」

「遅い」

言うより早くB/Bは落ちてきたナイフを掴みざまに海藤の首筋目掛け一閃。
確実に頚動脈を切り裂き、これで勝負が決したと思った。
だが、そんな彼の耳に飛び込んできたのは血飛沫に倒れる音ではなく、銃声。
はっとしたB/Bはすぐに自分の持つナイフを見てみると、柄から先の刃の部分が存在しない。
いや、正確には――
ナイフの刃先は回転しながら上空を舞い、さくっと小気味いい音を立てて降り積もっていた雪の上に落ちる。

「全部計算済みの動きか…… とんでもない奴だな」

「それはこっちの台詞。
ここまで計算外の動きをされると正直困るんだけど」

海藤は刃先が首筋を切り裂く瞬間に手に持った拳銃でナイフの刃先を吹き飛ばしたのだ。
ナイフはもう使い物にならないと判断し、柄だけになってしまった物体を投げ捨てて再び銃撃戦が始まる。
だが今度は、海藤もやられっ放しというわけにはいかない。
相手の銃弾の弾道を見切って弾丸を撃ち落す。

「……うそ?銃弾を撃ち落とした!?」

その表情からは読み取れないが、B/Bは確実に驚いているようだ。
そのほんの一瞬の隙を突いて、相手の足元に向けて拳銃を連射。
だが慣れた動きで素早くかわされる。

「ここまでは予想通り……だが!」

海藤は今度は拳銃を相手の頭上に向けて放つ。
一瞬その行動に理解ができないB/Bだったが、すぐに自分の置かれている状況を把握する。
彼は気づけば海藤によって倉庫の下へと誘導されていた。
海藤が放った弾丸は、B/Bの背後の倉庫へと突き刺さる。
そして、その衝撃で倉庫の屋根から降り積もった雪がなだれ落ちてくる。
舌鼓を打ってB/Bはなだれ落ちる雪の下敷きにならないよう素早い反応で跳躍して回避。
だが、海藤の本当の狙いはその場から退避するために相手が跳んだ瞬間だった。
空中で体勢を素早く立て直すことは、地上でその動作を行うよりもはるかに難しい。
そこを攻撃の機会と見た海藤は、B/Bの手に持つFive-SeveNに向けて拳銃を連射。
彼の手からFive-SeveNを弾き飛ばす。
そして続けざまに連射する海藤に対して、武器を失ったB/Bは素早いステップでその場から飛び退く。
海藤はB/Bを牽制しながら先ほど弾き飛ばした銃の下に駆け寄り、落としたFive-SeveNを拾い上げる。
そして二挺銃の構えを取る海藤。

「やるね……。
単純に銃の腕がいいだけじゃなくて、状況判断も素早い」

「お褒めに預かり光栄だね。
さて……どうやら、形勢逆転のようだな」

海藤は二挺の銃を丸腰のB/Bに向ける。
状況から見て明らかに武器が無いB/Bの方が不利だ。
今までの戦闘状況から判断しても、彼が素手で銃に立ち向かうことができる戦闘スタイルは持ち合わせていないと考えられる。
……つまり、こちらの勝機は揺るがない。
そう確信した海藤は、銃口はそのまま相手に向けながら、じりじりとB/Bに近づく。
だが、次の瞬間信じられない事が起こった。
何かが掠めて行ったと思ったら、海藤の頬にまるでカマイタチにでも切られたような直線的な傷口が広がる。
傷は浅いが、じわりと滲む血液。
気づいたら、B/Bは何かを構えているような格好で立っていた。

「形勢逆転、か。……これでも?」

B/Bは一言呟くと、何も持っていない状態でまるで鞭を振るうかのような動作をする。
と、その瞬間何か見えない刃物にでも刻まれたように海藤の体中に切り傷ができる。
直感でこのままではまずいと思った海藤は、すぐにその場から離脱。
二挺の銃を交互に連射するも、それを身軽な動きであっさり避けると、再びB/Bが見えない鞭のようなものを振るう。
同時に海藤がB/Bから奪ったFive-SeveNがまるで鋭利な剣にでも刻まれたように細切れになる。

「なん……だと!?」

流石に驚きを隠せない海藤だが立ち止まっている暇は無い。
更に後退し、B/Bと距離を取る。
そして、ダブルイーグルを構えた状態で、見えない武器を持つ相手を見据える。
その時海藤の目に、彼の体に纏わりつくように舞う糸が飛び込んできた。
正確には、太陽の光が雪に反射して、煌きながら空中で舞う糸のような物体を映し出したのだ。

「大した反応速度だね、申し分ない。
……まあ、少しでも遅かったら細切れになるだけだけど」

余裕ありげに構えるB/Bだが、

「その糸……まさかピアノ線か?
しかも鉄を裁断するほどの高い強度を持つ――」

その海藤の言葉にピタリと動きを止める。
自分の持つ武器を見透かされるとは思ってなかったような反応だ。

「……だったら?」

だが、それでも彼は全く動じない。
むしろそれが分かったところで無駄だとも言わんばかりの威圧感だ。
もう言うことは無いとばかりにその場で演舞でも踊るようにピアノ線を振るうB/B。
姿が見えない――いや、正確には非常に視認性が低い凶器の猛攻を持ち前の直感で避け続ける海藤。
たまに反撃するも、普通に撃っていて当たる相手でもない。

「こいつは、まずったなぁ……」

倉庫街に山積みしてある木箱の裏に隠れてぼやく海藤。
だが、盾代わりにしていたその木箱の山でさえ、あっという間にバラバラになってしまう。

「……ッおい!冗談だろ!?」

止まっていては自分も二の舞になると判断し、その場からすぐに飛び退く。
接近戦には場慣れしている海藤だが、今回ばかりは相手が悪い。
ピアノ線のような特殊な武器の使い手と戦った経験など今まで皆無だからだ。
しかも相手は海藤の得意な銃撃戦でもギリギリの戦いになるほどの使い手。
なんとか倉庫街の物陰を利用しながら発砲するが、隠れる場所全てが細切れになっていく。
その原因のB/Bと言ったら、まるで戦闘中ということを感じさせないような滑らかな動きでピアノ線を操っている。
海藤は尚も右手のダブルイーグルを連射して相手を牽制しているものの、勝機が見えてこない。

「何をしても、無駄」

そろそろ勝負を決めようと思ったのか。
B/Bがより一層動きを速くしたと思うと、海藤の体中から血飛沫が上がる。

「クソッ!」

悪態をつくと同時に片膝をつく海藤。
B/Bがピアノ線を使い始めてまだ十分経つか経たないかというところなのに、既に海藤は満身創痍だった。
それでもまだ動く体を総動員して右手人差し指のトリガーに意識を集中する。
――が、その時。
B/Bがピアノ線に軽くひねりを加えたかと思うと、唯一の希望である右手のダブルイーグルがあっという間にバラバラになる。

「な――ッ!?」

右手に持っていた拳銃が、切り刻まれてもう二度とその機能を果たさなくなる様は、
まるで目の前がスローモーション再生されるような錯覚さえ覚える。
これが、自分が今まで頼ってきた、自分の体の一部とも言えるその拳銃の最期。
その光景は海藤に大きなショックを与えて、その場で呆然としてしまうという致命的な隙を作ることになる。
勿論、相手はその隙を逃さない。
隙だらけの海藤の首に素早くピアノ線を巻きつけると、

「たかが警察にしてはそれなりに楽しめたよ」

だが海藤の目はまだ死んでいない。
目の前に立つ青年をその双眸で睨むように見る。
それが気に喰わなかったのか、止めを刺す前にピアノ線で更に追い討ちを掛ける。
血が舞い、呻く海藤。
偶然飛び散った海藤の血がB/Bの頬に付着する。
すると何を思ったのか、彼はその血を自分の指にとって舐め、

「アンタの肉はさぞかし美味しいんだろうね……」

背筋がぞっとするような台詞を吐く。
そしてついに、止めを刺そうとB/Bがピアノ線を持つ腕に力を込めようとした、その時――
彼の背中に鉄の塊のようなものが押し付けられる。
少し硬直した後、やがて彼はため息をついて突如現れた乱入者の顔を見ようともせずに言葉だけ発する。

「……俺はこれでも気配を読むのは得意な方なんだけどね」

そう言ったB/Bの後ろには、いつの間にいたのか、海藤の同僚である特務課の木原未幸がいた。

「未幸ッ!?」

これは海藤にも予想外のことで、驚きを露にする。
未幸はそんな海藤に軽く目配せすると、今度はB/Bに向けて、

「それはそれは残念でした。
どれだけ気配を読むのが上手くても、初めから無いものを読むのは不可能だよね」

あくまでも軽い口調で言う。
だが、彼女の手に持つショットガンは、確実にB/Bの背中に押しあてられていた。
その未幸の言葉で、何かを納得したかのように口を開くB/B。

「なるほど、君が特務課の【紅き陽炎】ってわけか……」

「あら、私のこと知ってるんだ?
いや〜、私も有名になったもんだね」

少し誇らしげに言う未幸は、その言葉から緊張感はまるで感じられないが……

「でさ、今君が止めを刺そうとしてるのって私の同僚なんだよね。
悪いんだけどそのピアノ線、外してくれない?」

ここまで言うと一呼吸置いて、

「正樹を殺るんなら、私がアンタを殺すよ」

ひとつ声のトーンを落として言う。
その声から、さきほどまでのお気楽な態度など無かったかのように殺気が伝わってくる。

「……特務課って厄介な奴らばっかだね」

何か諦めたような、そんな台詞を言うB/B。
だが――

「でもひとつ言っておくけど――
俺が今その気になれば、二人まとめて殺すこともできるんだよ?」

打って変わって背筋に悪寒が走るような冷徹な言葉。
その言葉で今度は未幸が凍りつく。
いや、正確には彼女も銃口を向けた時から分かっていた。
この男は、自分達が二人がかりでかかっても止められそうにないことを。
追い詰めているはずの未幸のこめかみを冷や汗が伝う。
しばらくの沈黙――三人とも、相手の出方を待って動かない。
その言いようのない緊迫の時間を破ったのは、予想外にもB/Bの方だった。

「……やめた」

その一言で張り詰めていた空気が弛緩する。

「君らは確かに俺らの敵だけど、このままここで殺すのはもったいない。
海藤正樹…… いや、特務課の力が侮れないってことが十分わかったよ。
今日のところはそれだけでも収穫。
……あと、君の名前は覚えておくことにする」

「そいつはどうも……
オレもお前の名前は忘れないぜ、BloodyBlue」

海藤は自分の命が助かったことに苦笑いを浮かべながら返答する。

「それじゃあ、また会うときまでお互いの命は預けておくことにしようか」

そう言ってB/Bは、地面に積もった雪をピアノ線で掻き揚げて、舞い起こる白煙と共に姿を消した。
そのすぐ後、海藤は出血が多かったこともありその場で崩れ落ちる。
すぐ様海藤の下に駆け寄る未幸。

「ちょっと正樹、大丈夫!?」

「これが大丈夫に見えるかよ……」

小さく笑って応える海藤。

「待ってて、今救急班を呼ぶから!」

「すまねぇ未幸、よろしく頼むわ……」

もうほとんど動けない海藤だが、最後の力を振り絞って拳を地面に叩きつける。
いきなりの行動に驚いた未幸だが、黙って海藤を見守る。

「ちくしょう…… なんて様だよ。
オレが自分の得意な間合いで負けるなん…… て……」

意識も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
海藤は特務課の中でも銃撃戦――特に1対1の戦いで非常に優秀な能力を持っている。
それが、今回の相手には手も足も出なかった。
その悔しさが今になってこみ上げてきたのだろう、未幸はそんな海藤に何も言えなかった。

「次に会った時は、絶対に……」

最後の言葉を言い終わる前に、海藤の意識は完全に暗転した。




目が覚めたところは警察病院だった。
体を起こそうとするが、途端に体中を痛みが駆け巡る。
自分の傷は思ったより深かったのだろうか、体を動かそうとしても満足にいかないようだ。

「……目が覚めたみたいね」

枕元から女性の声が聞こえる。

「未幸……」

首を動かした先には見知った同僚、木原未幸がいた。

「オレは……」

そうか、思い出してきた。
いきなり理由も分からず襲われて、銃撃戦になって、最終的に負けた。
BloodyBlue――血塗れの蒼の名を持つ者に。

「負けたんだな、オレは」

海藤の自嘲気味の呟きに、

「そうみたいね、信じたくはないけど」

慰めのつもりか、そう一言だけ返した。

「で、気分はどう?」

「最悪だ」

ただそれだけの短いやり取りに、未幸はそう、と答えてお互い黙り込む。

「……黙ってては話がすすまないでしょうに」

そんな空間を破ったのは、未幸から離れた場所で、ベッドに横たわる海藤を見ていた一人の男だった。

「高遠……お前も来ていたのか」

高遠と呼ばれた男も海藤の所属する特務課の一人。
本名は高遠元(たかとおはじめ)。
長身痩躯で、銀の色をした首の辺りまで伸ばした髪。
言ってみれば美形といえる顔立ちをしているが、その目は閉じられている。
いや、正確には彼の目は一生開かれることは無い。
随分前に彼は光というものを失っているのだ。
そのため目から入る情報には一切頼れない代わりに、その聴力、感性を極限まで高めてある。
つまり彼にとって目が見えないということは、不利でもなんでもない。
そんな彼は、壁にもたれかけていた体を起こして、海藤の方に歩み寄る。

「ええ、どこかの誰かが見も知らない人間に敗れたというのを聞きましてね」

「お前にこんな無様な姿を見せるとはな……」

穏やかな口調の中に、どこか皮肉混じりな言葉を言う高遠に対して自嘲気味に笑う海藤。
そんな海藤を見て高遠は首を振ると、

「……で、貴方ほどの男が敗北するなんて、よっぽどの相手のようですね」

先ほどの侮辱するような言葉とは打って変わった言葉をかける。
彼は、ああ言ったものの海藤の実力はしっかり認めている。
だからこそ今回のことが納得いかないようだ。

「相手は一人でしょうか?私が行って片付けてきてもいいんですが……」

「馬鹿いうな、分かっているだろうが」

その一言で高遠は沈黙する。
そう、高遠は1対1の戦いで海藤には勝てない。
つまり海藤が倒された相手に高遠が挑んでも、結果は見えている。
そもそも高遠は、本来単独で戦闘を行うタイプではない。
特務課にいるもう一人とタッグを組んで初めて他の追随を許さない強さを発揮する。
……と、そこで海藤は何かに気づいたように病室を見回す。
どうやら高遠の相棒の姿はそこにはないようだ。

「高遠、お前の相棒はどうした?」

「ああ、周明のことですか?
貴方が敗北の末負傷したということを聞いて怒ってましたよ。
で、あまりにも五月蝿かったので置いてきました」

あいつらしい。そう思って海藤は苦笑した。
『負けるぐらいならオレがぶっ殺してやる!』と叫んでいる姿が容易に想像できる。
周明とは、本名は八神周明(やがみしゅうめい)という同じく特務課の一人だ。
八神は、悪く言ってみれば言動が粗暴で、力にものを言わせる荒くれ者。
だがその実力は特務課だけあって侮れない。
それに高遠は、この八神と組んでこそ本来の力を発揮する。

「お前と八神のゴールデンコンビでも荷が重い相手かもな……」

その海藤の言葉に眉をピクリと動かす高遠。

「聞き捨てなりませんね。
たかが一人に私と周明が敵わないと?」

だが、そこまで言って高遠は気づく。
今目の前に倒れているのは誰だったか。

「なるほど、貴方がその様となれば、あながちその言葉も過言ではないようですね」

むぅ、と悩むような仕草をする高遠。
だがすぐに高遠はこんな言葉を返してくる。

「しかし、貴方のダブルイーグルは破壊されたと聞きました。
……とうとう、その時が来たということではないでしょうか?」

高遠のその言葉に、今度は海藤が眉間にしわを寄せる。

「貴方も分かっていたのでしょう?ダブルイーグルの欠陥性を。
勿論、多少のカスタムチューンは施してあるようなので、一般に出回っているものよりは高性能です。
しかし、所詮その程度。
私の【Araboth】や木原の【Shehaqim】とは比べ物になりません」

Araboth[アラボト]とは高遠の得物、Shehaqim[シェハキム]とは未幸の持つショットガンの別称である。
彼ら特務課には、通常のラインで生産された銃器より遥かに改良が加えられた武器が与えられている。
そして、特務課の持つ武器にはそれぞれ第一天界から第七天界までの名が与えられているのだ。
Arabothは第七天界、Shehaqimは第三天界を表すように。
カスタムされた天界の名を与えられた武器に対して、一般に出回っているダブルイーグルはおもちゃでしかない。
高遠の言葉で更に険しい表情になる海藤。
だが、そこで未幸が口を挟む。

「待ってよ元。
分かってるでしょ?正樹がなんでダブルイーグルを取ったのか」

その言葉でバツが悪そうな顔になる高遠だが、

「しかし、そのために命を落とすことがあったら本末転倒です。
今回も、助かったのは運が良かっただけ。
そのことは海藤自身が一番よく分かっていると思うのですが――」

負けじと反論する。
そして懐からソレを出すと、海藤の前に放り投げる。
投げられたものは、銃全体が深海のように深い藍で彩られた拳銃。
海藤はそれを見て一瞬目を見開くが、すぐに冷静に返す。

「これを持ち出してどうするつもりだ?オレにまたこいつを取れと?」

「ええ、これは貴方の銃です。
いや、正確には貴方専用に改良された天界の名を持つ武器――【Machonom】」

Machonom[マコノム]という第四天界の名がつけられた銃は、海藤を誘うように青黒く光る。
そして俯き気味に、何か言うのをためらうように高遠は口を開く。

「貴方がこの銃でかつての仲間を殺したことは私も知っています」

そう、海藤は丁度一年前、自分の銃で――
この青黒く光る銃でかつての特務課の仲間を殺した。
任務中の事故だったとはいえ、その罪悪感だけは確かに海藤に残っている。

「しかし、貴方がその罪悪感に縛られることをかつての仲間は望むでしょうか?
いえ、仲間の無念に応えるのならばむしろ貴方はこの銃を取るべきだ。
同志に報いるために、同志が見ること叶わなかった未来のために」

あくまで真剣に海藤に訴える高遠。

「正樹……」

未幸は海藤が抱える過去を知ってか、どこか悲しそうな面持ちだ。
海藤はというと、仰向けになって天井をただ見つめていた。
しばらく三人の間を沈黙が支配する。そして――

「やれやれ、いつからお前はオレに説教なんて言うキャラになったんだ?」

苦笑しながらその沈黙を破ったのは海藤だった。

「貴方が頑固者だからですよ」

あっさりと切り返す高遠。

「……だな。そろそろ、過去にケリつける時かもしれない」

「正樹、それって!?」

椅子から身を乗り出す未幸。
海藤は側にある投げられた拳銃をつかむと、

「また、力を貸してもらうことになるぜ、相棒」

そう言って青黒く光る拳銃をその左手に握り締める。
その光景を見て納得した高遠は、もう一つの用事を思い出す。

「それと、隊長から伝言です。
『傷は浅くない、しばらく休養を取れ』……だそうで」

「ったく、遠まわしに言ってくれるな。
つまり久しぶりのこいつに慣れるための時間をやるってことだろ?」

その海藤の言葉に小さく笑って答える高遠。
「どう取るかは貴方の自由です」とは言っているが、思惑は見えている。
ふぅ、と一息ついた海藤は、

「じゃあ、オレの方から隊長へ伝えてほしいことがある」

唐突にそう切り出した。

「なんでしょうか?伺いますけど」

首をかしげる高遠。
海藤は拳銃を右手に持ち構えて、仰向けに寝たまま天井向けて銃を構える。

「荒野の鷲は、今こそ飛び立つ……ってな」

一瞬驚いたような顔をする高遠だったが、すぐに穏やかな表情に戻る。

「心得ました。しかと伝えておきましょう」

海藤は右手に持った久しぶりに見る自分の相棒――
深海色に染まるデザートイーグルをただじっと見つめていた。



―――To Be Continued...―――


////////////////////

なんか非常にうまくてウラヤマシス。
ここから因縁の関係が始まったってのがねー

・・・さて朱雪のUP準備しなきゃ・・・


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posted by 日向 夏樹 at 23:28| Comment(0) | 頂き物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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